研究の概況2007年 (Research 2007)

研究と教育 | Research and Education

1) セレン摂取による血液流動度の改善効果:循環器疾患予防の可能性
セレン酵母(セレン200μg)の補充により、血液流動性(さらさら度)の改善を観察した(1) 。また、亜セレン酸ナトリウム(セレン200μg)の補充により、血漿中のプロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)の増加およびトロンボキサンB2(トロンボキサンA2の代謝産物)の減少を観察した(2)。これらのことから、セレン補充は、循環器疾患の予防に役立つという示唆を得た。平成18年度では、血清中の遊離コレステロールが2週間のセレン摂取により有意に減少したという結果が得られた。
2) セレン補充研究:前立腺がん(前立腺特異抗原PSA)への影響
皮膚がんの患者を対象にしたランダム化比較試験から報告された、セレン補充の前立腺がん予防効果が発表されて以来、セレン補充は前立腺がんの予防に有用なのではないかと注目が集まっている。実験系でも、セレン添加によって、前立腺がん細胞のアンドロゲンレセプターや前立腺特異抗原(PSA)の発現が低下するという報告がある。これらを踏まえて、現在、PSA値が高い男性を対象に、亜セレン酸ナトリウム(セレン200μg)を補充し、その後のPSAの変化を観察する研究を実施している。
3) セレン補充研究: 学生実習
毎年、4月に選択基礎医学実習(医学科4年次)の学生を受け入れ(平成18年度は11名、平成19年度は15名)、セレン補充をさせ、食事調査、採血、セレン濃度・グルタチオンペルオキシダーゼ濃度の測定、血液流動度・血小板凝集能測定などを実施している。
4) セレン強化スプラウトによるがん予防:セレン強化ブロッコリースプラウトの抗がん作用の検討
セレンを添加した水でブロッコリーのスプラウトを育てると、そのすりつぶし液に、抗がん作用の強いセレン化合物(メチルセレノシステイン)を多く含むようになる。その抗がん作用を、さまざまながん細胞系列を用いて検討している。食道がんで通常のスプラウトすりつぶし液に比べ、強い抗がん作用を示した。現在、セレン化合物以外の抗がん作用を持つ物質(スルフォラファン)の効果の峻別を検討中である。
5) 血清セレン指標と前立腺がん:PSA検診コホートを使ったネステッド・ケース・コントロール研究
群馬大学泌尿器病態学(鈴木和浩教授、伊藤一人助教授ら)との共同研究。市町村の住民健診時に実施しているPSA検診で採取した残余血清が研究利用の包括同意のもとで保存されている。その凍結保存血清を用いた研究である。PSA検診時点での血清セレン濃度・グルタチオンペルオキシダーゼ活性・血清セレン分別分析の結果と、その後の前立腺がん罹患との関連を統計学的に検討する。現在、研究計画の倫理審査を受けたところである。
6) ウィルソン病の新しい診断方法:HPLC-誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による血清(漿)銅の分別定量分析とウィルソン病診断への応用
銅の代謝異常が本態の遺伝性疾患ウィルソン病の非侵襲的でより特異的な診断方法の研究である。HPLC-ICP-MSを用いて、血清中のセルロプラスミンと自由銅を分別分析できる点がより特異的であるゆえんである(3)。またEDTAのキレート作用を利用して、血漿中の銅を定量分析する研究も行っている(平成18年度論文作成チュートリアル課題)。
7) カドミウムとセレンの相互作用機構の解明:培養肝細胞におけるセレンのカドミウム解毒作用のHPLC-ICP-MSによる解析(4)
カドミウムは培養肝細胞に毒性を持つが、セレンを添加することで、その毒性を抑えることができる。その際の、培養液中や細胞中のセレン化合物をHPLC-ICP-MSで分析し、カドミウムとセレンが相互作用する機構の解明を目指している。
8) 亜鉛の測定研究:
第1内科 高木均先生と、亜鉛添加培養肝細胞(HCV-O)における亜鉛のICP-MSによる定量、及び、メタロチオネイン結合亜鉛のHPLC-ICP-MSによる解析を行っている。
9) ノックアウトマウスを使ったセレン代謝研究:
分子細胞機能学 石井功先生と、ノックアウトマウスを用いたセレン代謝に関する研究を行っている。
10) がん登録データを利用した研究:重粒子線対象患者数の推定
放射線医学総合研究所の治療成績と群馬県地域がん登録のデータとの比較によって、重粒子線治療の適応率を検討した研究(5)およびその結果を元にがんの部位別重粒子線治療の適応となる患者数を推定した研究(6)を実施した。これらはともに平成16年度論文作成チュートリアルの課題である。
11) 人口動態統計を利用した研究: 前立腺がん死亡のage-period-cohort (APC) モデル解析
前立腺がんは現在増加しているがんとして注目されているがんの一つである。2020年の推定罹患者数は肺がんについで2番目とされている。この経年変化を、日本人集団の年齢構成の影響と出生コホートの影響と時代背景の影響とに分離して、その変化の意義を深く理解しようとする研究のひとつに、APCモデル解析がある。前立腺がんの死亡データを解析したところ、時代背景の影響はほとんどなく、出生コホートの影響が大きいことが明らかになった(平成18年度論文作成チュートリアル課題)
12) うつスクリーニング研究:
  性・年齢別のうつ状態の特徴
  より簡潔でより特異的なうつ質問票の作成
  家族環境・既往歴・生活習慣とうつ状態
うつは自殺の原因として対策が必要な疾病の一つである。自殺の原因は、性・年齢によってことなることが知られているが、大きな原因の一つであるうつ状態に関しても性差・年齢層別の差が見出された(7)。その結果をもとに、より簡潔でより性・年齢層に特異的なうつスクリーニング質問票の作成のため、現在アンケート調査中である。スクリーニングによって早期発見が重要であるが、より根本的にはうつを予防する社会・生活環境が重要であり、そのリスクファクターを明らかにする研究を行っている(平成19年度選択基礎医学実習のテーマ)。
13) 小児アレルギー疫学調査:群馬県における3歳児アレルギー調査:自覚症状の地域分布と生活環境について
乳幼児に増加しているアレルギー性疾患の増加要因の解明に向けて、アレルギー性疾患の有症率などの実態調査を、群馬県全市町村の3歳児健診全受診者を対象に行った。喘息有症率に関連する要因を解析した結果、群馬県70市町村(平成15年3月までの区分)のうち喘息有症率が高い地域が認められたが、受動喫煙やペット飼育、排気ガスの気になるなどの項目の回答との明らかな関連性は認められなかった(8)。今後は、幹線道路の交通量との関係や人口密度との関係などを、7桁郵便番号などを利用した有症率の地図上分布を利用し、詳細に解析したい。
14) 川崎病RCT共同研究:重症川崎病患者に対する免疫グロブリンと免疫グロブリン・プレドニゾロン初期併用投与のランダム化比較試験
重症な川崎病患者に対して、治療初期から標準治療の免疫グロブリン投与に加えて、プレドニゾロンを投与するほうが、免疫グロブリンのみの治療に比べて、冠動脈拡大病変の出現頻度を抑えるかどうかを確かめる第三相試験に、試験デザインおよび統計解析について、関与している。
15) ソロモン諸島での現地調査:近代化と社会不安の相克とソロモン諸島首都近郊のライフスタイルと健康の変化
2006年9月に、首都ホニアラから東に約50 km離れた東タシンボコ区における現地調査を実施し、2000年前後にMalaita島民とGuadalcanal島民の間で起こった激しい民族紛争が住民のライフスタイルと健康状態に与えた影響について検討した。また、民族紛争が近隣の信頼度を含む社会関連資本(Social Capital)に与えた影響についても検討した。尿検査や食事調査の結果から、米やインスタントラーメンがかなり高頻度に摂取されるようになっていた食生活が、伝統的なサツマイモと魚を主体とした食生活に戻り、肥満者が減って健康状態がかえって良好になったことが示唆された。民族紛争による心理的影響は、全住民が強く受けていた。さらに,略奪にあった商店主などは大きな物質的影響を受け,紛争終結後4年が経過した調査時点でも回復していない一方で、一般の自給自足的な農業を営む住民が受けた物質的な影響はそれほど大きくなく、近隣同士の信頼も揺らいではいなかった(9)。
  1. Abdulah R, Koyama H, Miyazaki K, Nara M, Murakami M. Selenium supplementation and blood rheological improvement in Japanese adults. Biol Trace Elem Res 2006;112:87-96.
  2. Abdulah R, Katsuya Y, Kobayashi K, et al. Effect of sodium selenite supplementation on the levels of prostacyclin I(2) and thromboxane A(2) in human. Thromb Res 2007;119:305-10.
  3. Kobayashi K, Katsuya Y, Abdulah R, et al. Direct analysis of ceruloplasmin in human blood serum by HPLC/inductively coupled plasma-mass spectrometry for the diagnosis of Wilson disease. Biomed Res Trace Elements 2007;18:91-5.
  4. 勝矢陽子, 小林健司, AbdulahRizky, 小山洋. 培養肝細胞におけるセレンのカドミウム解毒作用のHPLC-ICP-MSによる解析. 日本公衆衛生学会総会抄録集(1347-8060), 2006:1022.
  5. 長谷川意純, 篠原洋一郎, 茂木文孝, 中澤港, 小山洋. 群馬県における年間重粒子線治療対象患者数の推定(第1報) 部位別・病期別生存率の比較から求めた重粒子線治療適応率. 北関東医学 THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL(1343-2826), 2005:243-249.
  6. 篠原洋一郎, 長谷川意純, 茂木文孝, 中澤港, 小山洋. 群馬県における年間重粒子線治療対象患者数の推定(第2報) がん罹患数及び重粒子線適応患者数. 北関東医学 THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL(1343-2826), 2005:251-255.
  7. 七尾道子, 中澤港, 大谷哲也, 小山洋. うつスクリーニング質問紙で把握される性・年齢別のうつ状態の特徴. 日本公衆衛生学会総会抄録集(1347-8060), 2006:854.
  8. 宮崎博子, 勝矢陽子, 大谷哲也, et al. 群馬県における3歳児アレルギー調査:自覚症状の地域分布と生活環境について. 第20回群馬県地域保健学会. 前橋, 2007:87-90.
  9. 中澤港. メラネシア社会における社会疫学概念適用の限界. 日本オセアニア学会, 2006.

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